【電子工作実践編】動作の邪魔をする共通インピーダンスに要注意|LTspiceで始める実用電子回路入門

【電子工作実践編】動作の邪魔をする共通インピーダンスに要注意|LTspiceで始める実用電子回路入門

目次
0:00 オープニング
0:33 共通インピーダンスとは
1:42 例題:共通インピーダンスを考慮しない配線
5:58 共通インピーダンスを考慮した改善方法
7:57 実機デモ
9:07 ワンポイント
9:59 まとめ

動作の邪魔をする共通インピーダンスに要注意

おかしいなぁ。
とりあえず配線を繋げたんだけど、うまく動作しないや。

それはもしかしたら、共通インピーダンスの仕業かもね!

今回はそんな、配線はとにかく繋がれば良いと思っている方に向けて、「動作の邪魔をする共通インピーダンスに要注意」、というテーマで話をしていきたいと思います。

本記事ではそもそも共通インピーダンスとは何かということから、実機を使った共通インピーダンスの影響まで、写真付きで詳しく説明していきます。

今はとりあえず配線は繋がればいいと思っている人でも、この記事を読み終わる頃には、共通インピーダンスを考慮した回路が作れるようになるはずですよ!

共通インピーダンスとは

まず始めに、共通インピーダンスの意味ついて簡単に説明しておきます。

共通インピーダンスとは
複数の回路に共通して存在するインピーダンスの事。

言葉だけだとよく分からないと思うので、回路図で説明します。

回路Aと回路Bにそれぞれ電流が流れる時、以下の赤い四角で囲われた部分には共通して電流が流れるので、共通インピーダンスとなります。

共通インピーダンス

また以下基板パターンのように回路Aと回路Bに電流が流れる時、基板のパターンでも抵抗値を持つので、オレンジ線の部分が共通インピーダンスとなります。

オレンジ線の部分が共通インピーダンス

共通インピーダンスが回路上にあると、以下2つの問題が発生します。

共通インピーダンスが回路上にあると発生する問題点
  1. 複数の回路の電流がその点に集中するため、流れる電流値が大きくなり、電圧降下が大きくなる
  2. 他の回路に流れる電流の大きさによって電圧降下が増減するため、他の回路の影響を受けやすくなる

共通インピーダンスはこのように問題点が多いため、できるだけ小さくするように回路を組む事が重要です。

それでは例題を一つ取り上げて、実際にこの共通インピーダンスが回路にどういう影響を与えるかを見てみましょう。

共通インピーダンスが回路に与える影響

今回はLEDマトリクスという部品を3つ使って、卓上ディスプレイのプロトタイプを作製するという設定で回路を組んでみました。

LEDマトリクス

組んだ回路をブレッドボード図にしたのが以下になります。

ブレッドボード図それでは、ここで問題です。

問題
全てのLEDマトリクスに動作保証電圧以上の電圧を供給するためには、電源電圧は何V以上必要になるでしょうか?4つの選択肢から選んで下さい。
(A)2.80V (B)3.02V (C)3.14V (D)3.49V
問題の仕様
  • ジャンパーワイヤー:1本あたり抵抗値70mΩ
  • LEDマトリクス:1ユニットあたり消費電流400mA
  • 赤/黒のジャンパーワイヤー以外の抵抗値は0Ωとする

抵抗成分があるため、配線の仕方によっては共通インピーダンスができてしまいます。
ブレッドボード図を参考に、この場合はどのような等価回路になるか考えてみましょう。

理想的にはジャンパーワイヤーは0Ωなのですが、実際には抵抗成分が存在する事を考慮して下さい。

答えを見る前に少し考えてみて下さい。

それでは解答となります。
※以下の解答タブを押すと答えが出ます。

(C)3.14V

順に解説していきます。

まず今回の回路を、抵抗や電流源などを使い等価回路に落とし込んだものが、以下の図になります。

抵抗や電流源などを使い等価回路に落とし込んだもの

このような配線をした場合、電源に最も近いジャンパーワイヤーR1にはユニットA,B,Cの電流の総和I1+I2+I3が流れます。

A,B,Cの電流の総和I1+I2+I3
また、電流が戻ってくる経路にあるR4に対しても同様になります。

R4に対しても同様

結果としてユニットAにかかる両端電圧Va、ここでいうとA+とA-の電位差は、以下の式に記載する電圧となります。

Va=V1-(R1+R4)(I1+I2+I3)

Va=V1-(R1+R4)(I1+I2+I3)

 

後段にあるユニットB、ユニットCの両端電圧についても、同様に以下の式で表す事ができます。

Vb=Va-(R2+R5)(I2+I3)
Vc=Vb-(R3+R6)I3

Vb=Va-(R2+R5)(I2+I3) Vc=Vb-(R3+R6)I3

これらの式を展開すると、電源から最も遠いユニットCの両端電圧Vcは以下の式で表されます。

Vc=V1-(R1+R4)(I1+I2+I3)
-(R2+R5)(I2+I3)
-(R3+R6)I3

Vc=V1-(R1+R4)(I1+I2+I3) -(R2+R5)(I2+I3) -(R3+R6)I3

第2項、第3項、第4項(下記図のオレンジ線部)はいずれもマイナスの値を取るため、大元となる電源電圧V1から多くの因子が引かれます。

大元となる電源電圧V1から多くの因子が引かれ

その結果、電圧値として小さくなってしまっている事が分かります。

共通インピーダンスを考慮しない配線

次にLtspiceという回路シミュレーションを使って、実際にユニットCの両端電圧がどれくらい下がってしまうのかを確認してみましょう。

上記の回路

上記の回路を、今回はDCsweepというモードを使ってシミュレーションしようと思います。

DCsweepとは
今回のように電源電圧を変動させた時の、各部の挙動を確認するのに便利なモード。

まずは各部の電圧と電流をモニターしてみましょう。
以下の画像で各部にある電流を見てみると、R3(ピンク色の線)には1ユニット分の電流である0.4Aしか流れていませんが、R1(オレンジ色の線)には3ユニット分の電流1.2Aが流れています。

各部にある電流

次に以下の図のように、電源電圧を1.0Vから5.0Vに振りシミュレーションしていきます。
一番上のオレンジの線がV1なのですが、3ユニット分の電流が集中して流れる事によってV1から大きく電圧降下が発生し、青色まで落ちているのが分かると思います。

電圧降下

 

先ほどのVaの式から計算で求めると、電圧降下分V1-Vaは168mVとなります。

V1-Va=(70mΩ+70mΩ)(0.4A+0.4A+0.4A)
=168mV

後段に行くほど前段からの電圧降下量は下がってはいきますが、最後段のユニットCの両端電圧は、V1と比べると大きく下がってしまっています。

V1と比べると大きく下がって

こちらも計算で求めてみると、V1からの電圧降下分V1-Vcは336mVとなります。

V1-Vc=(70mΩ+70mΩ)(0.4A+0.4A+0.4A)
+(70mΩ+70mΩ)(0.4A+0.4A)
+(70mΩ+70mΩ)0.4A
=336mV                    

つまりユニットCの両端電圧は電源電圧と比べて336mVも下がってしまうという事になります。

この状態で、LEDマトリクスの動作保証電圧2.8Vを確保するためには、電源電圧V1=2.8V+0.336=3.136V以上必要という事になります。
よって(C)の、3.14Vが正解となります。

今回行った以下の図のように配線をした場合、電源電圧と末端のユニット間では0.3V以上もの電位差が発生してしまう事が分かりました。

電源電圧と末端のユニット間では0.3V以上もの電位差が発生してしまう

この差を発生させてしまっている原因の正体が、最初に説明した共通インピーダンスなんです。

今回の例で言うと、R1やR4、R2やR5がそれにあたります。

そこで次に共通インピーダンスを考慮して、配線を改善したものを作ってみたいと思います。
なお前提として、使用するケーブルや部品は同じものとします。

共通インピーダンスを考慮した改善方法

共通インピーダンスを改善するために、以下の図のように配線をしてみました。
前回との配線との違いは、赤と黒の線を指示部のラインに接続し直した点のみです。

赤と黒の線を指示部のラインに接続し直した点

ブレッドボード図で表すと、以下のような形になります。

ブレッドボード図

この配線を等価回路にしたものを以下に示します。

等価回路

それぞれのユニットの電源は、ジャンパーワイヤーを介して電源に近いところに直接接続しているため、それぞれの抵抗は電源からそれぞれ独立して並列にぶら下がる事になります。

それぞれの抵抗は電源からそれぞれ独立して並列にぶら下がる

結果として、共通インピーダンスのない回路を作る事ができました。

この回路図からも明らかなように、各ユニット両端の電圧は以下の式のように表されます。

Va=V1-(R1+R4)I1
Vb=V1-(R2+R5)I2
Vc=V1-(R3+R6)I3

配線改善後のVcの式を改善前の式と比べると、明らかに右辺のマイナス項が少ない事が分かります。

明らかに右辺のマイナス項が少ない

ここでも同様に、LTspiceを使って電圧効果の違いを確認してみます。

LTspiceを使って電圧効果の違いを確認

各部の電流と電圧をプロットしていきます。
以下の図で電流を見てみると、今度はI1,I2,I3の電流が全て一定値となっています。

I1,I2,I3の電流が全て一定値

次に以下の図で電圧を見てみると、電源電圧V1からの電圧降下量が数10mVと小さく、さらにどのユニットも等しい電圧となっている事が分かります。

どのユニットも等しい電圧

実際に式を計算してみると、電圧降下分V1-Vcは56mV。
配線改善前の336mVと比べて、280mVも電圧降下量が低減できている事が分かります。

280mVも電圧降下量が低減できている

ブレッドボード上の配線を変えただけですが、電圧降下量を大きく低減できました。
さらに結果として電源電圧が低いものを選ぶ事ができるようになりました。

これは見方を変えると、同じ電源電圧でも、より各ユニットの動作安定性を高める事ができたとも言う事ができます!

ユニットの動作安定性を高める事ができた

最後に実機を使って、実際に共通インピーダンスの影響を確認してみましょう。

実機デモ

実機デモでは例題の最初の回路のように、わざと共通インピーダンスを持たせた配線になっています。

共通インピーダンスを持たせた配線

この状態で電源電圧の両端とユニットCの両端の電圧を測ると、以下の図のようにユニットCの点では400mVくらい電圧が下がっている事が分かります。

ユニットCの点では400mVくらい電圧が下がっている

十分に高い電源電圧が供給できている場合は、この電圧差が問題になる事は少ないです。
ですが電源電圧を少しずつ下げていくと、ユニットCから徐々に回路動作が不安定になっていきます。

2.466V
回路動作が良好

回路動作が良好

1.923V
ユニットCのみ回路動作が不安定

ユニットCのみ回路動作が不安定

1.895V
続いてユニットBも回路状態が不安定
続いてユニットBも回路状態が不安定
1.766V
すべての回路状態が不安定
すべての回路状態が不安定

 

POINT
複数のユニットで同様の明るさや、同一動作をさせたいときは、可能な限り電源電圧は揃えておくことが重要

電源電圧を揃えておくために、共通インピーダンスが小さくなるように改善していきます。
先ほどの例題と同じく電源グランドの配線を変え、下記の図のように電源に近いところに直接接続するだけです。

電源に近いところに直接接続するだけ

すると以下の図のように、電源電圧からの電位差がかなり小さく、かつユニットA,B,Cの電圧を同程度にする事ができました。

かつユニットA,B,Cの電圧を同程度

説明は以上になります。

今回はブレッドボードを使って説明をしてきましたが、実際にはケーブルや基板パターンなど、あらゆる場所で共通インピーダンスは発生します。

電流の流れるルートをイメージして、できるだけ共通部分を作らない配線を心がけましょう!

ワンポイントアドバイス

最後に1点だけアドバイスをしておきます。

今回行ってきたようにLTspiceという回路シミュレーションを使うと、回路動作を素早くパソコン上で検証する事ができます。
すると開発効率がグッと向上するだけでなく、安全に検討することができるので、LTspiceは電子工作に必須のツールです。

LTspiceは電子工作に必須のツール

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今回のようなネタを毎週吟味して配信してくれていますので、シミュレーションや回路に詳しくなれます。

今回は、配線はとにかく繋がれば良いと思っている方に向けて、「動作の邪魔をする共通インピーダンスに要注意」というテーマで話をしてきました。

目に見えないものをいかに捉えるかというのが共通インピーダンスを減らす上で重要なポイントになります。

「組んだ回路は等価回路に落とし込む」という癖をつけることも重要です。
他にも電子工作初心者が最低限身につけるべき知識やツールの解説など、電子工作をゼロから体系的に学べる動画や記事を投稿しています。

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