【電子工作実践編】ブラシ付きDCモータを安全に使いこなす方法|LTspiceで始める実用電子回路入門

ブラシ付きDCモータを安全に使いこなす方法

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目次
0:00 オープニング
0:16 DCブラシモータを使った実機デモ
0:51 問題
1:19 ダイオードの役割
4:12 Hブリッジ回路でシミュレーション
5:44 まとめ

ブラシ付きDCモータを安全に使いこなす方法

DCモータを使って遊びたいけど、モーターの仕組みが分からなくて困っているんだ。

DCモータを使った遊び方はたくさんあるけど、まずはモーターの仕組みから学んでいこう!

今回はそんな方のために、「ブラシ付きDCモータを安全に使いこなす」というテーマで話をしていきます。

この記事を読むと、モーターの仕組みからダイオードの役割までの知識が深まり、DCモータを安全に使いこなせるようになるので是非最後までご覧ください。

この動画の内容はCQ出版のメルマガでも解説していますので、是非そちらも併せてご覧下さい。

DCブラシモータを使った実機デモ

まずは本題に入る前に、今回の題材であるブラシ付きDCモータを使ったガジェットをお見せしたいと思います。

このガジェットはオムニホイールと呼ばれる特殊なホイールと、ブラシ付きDCモータの双方向制御が可能なドライバICを組み合わせて、全方向に走行できるようにしたものです。

ガジェットはBluetoothでパソコンと繋がっており、パソコン画面上の「Scratch」から走行の指示を出して動かしています。

ブラシ付きDCモータは古くからあるシンプルなモータですが、使い方次第ではまだまだ色んな遊び方があります。

ただし使用する場合には、注意が必要な点もあります!

問題

突然ですが、ここで問題です。

問題
以下の図は、今回使ったドライバICの内部回路図です。出力段のFETに寄生ダイオードが記載されていました。
この寄生ダイオードの主な役割は、次の(a)〜(d)のどれでしょうか?

 

(a)電磁ノイズの低減 (b)FETの保護 (c)ブラシ付きDCモータの保護 (d)特に役割はない 

ヒントとしては、モータの中身は巨大なコイルであることを考えると、何が起きるかをイメージしやすくなると思います!

それでは解答となります。
※以下の解答タブを押すと答えが出ます。

(b) FETの保護 

順に解説していきます。

モータの中身を分解すると、以下の画像と絵のように構成されています。

ローターにはコイルがグルグルに巻かれていて、電流が「ブラシ→整流子→コイル→整流子→ブラシ」というルートで流れる事で、ロータに磁界が発生します。

この磁界によって永久磁石に引き寄せられ、回転力が生まれるんです。

そしてこのモータを以下のように簡易的な回路で表すと、「コイルのインダクタンス」「抵抗成分」「モータの回転によって発生する誘起電圧」の直列回路で表す事ができます。

ダイオードの役割

それでは一旦、この回路を使ってダイオードの役割を確認してみましょう。

以下の回路は、無料の回路シミュレータのLTspiceを使って、ブラシ付きDCモータをオン・オフする回路を作成したものです。

まずここでは単純に、FETだけを繋いでオン・オフしています。

これでシミュレーションを走らせてみると、以下の結果のようにFETがオフした瞬間にドレイン側の電圧が500V程度まで跳ね上がっており、かなりの電圧がかかっている事が分かると思います。

このような現象は、以下の式で説明する事ができます。

E=IaRa+La*dla/dt +Ec+Vds

この回路にIaの電流が流れたとすると、各部の電圧を足したものは電源電圧Eに等しいので、先程の式で表せます。

FETがオンからオフになると、電流が急に小さくなるためdIa/dtの部分がマイナス側に大きい値になります。

結果として、逆起電力と呼ばれる「-La*dIa/dt」の大きな電圧が発生します。

各部の電圧の総和は電源電圧に等しくならなくてはいけないので、逆起電力の分を埋め合わせる形でVdsがプラス側に大きな値となり、ドレイン側に大きな電圧がかかってしまうという事になります。

注意
ドレイン・ソース間の耐圧が低い部品を使っていると、FETを壊してしまう恐れがあるため注意!

そこで登場するのが、以下のダイオードです。

シミュレーションを走らせてみると、このようにFETをオフした瞬間のドレイン側の電圧が数V程度であり、大幅に下がっている事が分かると思います。

先程の例で電圧を跳ね上げてしまった電流がどこに行ったかというと、以下のようにダイオードを介して流れ出ている事が確認できると思います。

このように電流がダイオードを介している流れを、以下の図で詳しく説明していきます。

FETがオンしている時にはFETに電流が流れる
FETがオフすると電流の流れ先がなくなる
徐々にドレイン側の電圧が増加していくが、ある程度上がるとダイオードが導通して1番右の図のルートで電流が流れる
その結果、ドレイン側の電圧はダイオードの順方向電圧程度で抑えられる

実際の回路で試してみても、やはりダイオードをつけると大幅に電圧を下げられる事が確認できました。

最後に、今回のガジェットでも使用しているモータを、双方向に制御可能な回路の場合についても見てみましょう!

この回路はHブリッジとも呼ばれ、以下の画像のように4つのFETをたすきがけでオン・オフし、モータに流れる電流の向きを変える事で、双方向を実現しています。

この回路を、ダイオードを使用せずLTspiceで組んだものが以下の図になります。

なおここではFETの代わりに、電圧制御スイッチと呼ばれるシミュレーション上だけに存在するスイッチを使っています。

ハイサイド側のFETをオン・オフするのに少し手間がかかるので、今回みたいな簡単な動作検証の場合に便利なアイテムです。

使い方については、メルマガの方で解説していますので気になる方は併せて見てみて下さい!

シミュレーションを走らせてみると、以下の図のようにFETをオフした瞬間に、ドレイン電圧が大きく変動している事が分かります。

先程の例とは電流の向きが違うため、値がマイナスであったり、電圧制御スイッチを使っているため、値が非現実的な値になっています。ですが、スイッチング素子に大きな電圧がかかっている事には変わりはありません。

Hブリッジ回路でシミュレーション

そこで、このHブリッジ回路にもダイオードを接続してみます。

以下の図がその結果で、ダイオードをつけた事でドレイン電圧の沈み込みを大幅に減らす事ができました。

そして先程の例と同じように、オフした瞬間にダイオードに電流が流れている事が分かります。

このように、ダイオードを接続する事で電流をバイパスし、電圧の急激な変化を抑える事でFETを保護しています。

まとめ

今回は、電子工作でよく使われるブラシ付きDCモータを題材にして、ダイオードを使って安全に使いこなす方法を紹介してきました。

スイッチング素子を壊さないためにも、ダイオードは必ずセットで使うようにしましょう。

他にも電子工作初心者が最低限身につけるべき知識やツールの解説など、電子工作をゼロから体系的に学べる動画や記事を投稿しています。

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